2021年の新年を迎え、高知県腎バンク協会の理事長として御挨拶申し上げます。
近年、不治の病と言われた疾患、すなわち腎不全、心不全、肝不全、呼吸不全などが臓器移植によって、完全に治る時代になりました。
このような時代に、高知県腎バンク協会は、1988年(昭和63年)7月1日に、他人の臓器を移植して機能を回復させる臓器移植医療をサポートする機関として設立されました。当時は我が国では、臓器移植と言えば、腎移植だけで、心、肝、肺などは行われていませんでしたが、年々、医療技術や免疫抑制剤が進歩し、成功率があがり、安全な医療として注目されるようになりました。
しかし、この臓器移植医療の大きな問題は、ドナー(臓器提供者)です。臓器移植のドナーには、生体ドナー移植と死体ドナー移植の二通りがあり、生体ドナー移植は健康な人を傷つけるという点と家族内に重い精神負担を負わせるという問題があります。このため後者の死後に臓器提供を行う死体ドナー移植の推進が求められました。しかし死体ドナーには脳死ドナーと心停止下ドナーがあり、前者は肝、心、肺、腎や角膜などの移植が行われ、後者からは腎や角膜移植が行われていますが、脳死ドナーと臓器移植の法律は長い間、整備されていませんでした。
わが国では、1997年10月16日に制定された「臓器移植法」によって脳死後の臓器提供が可能になりましたが、この法律は、脳死後の臓器提供には、本人の書面による意思表示と家族の承諾を必要とする厳格なルールでした。そこで、2010年7月17日に改正法案が施行され、家族の承諾で脳死ドナーでも臓器提供が可能になりました。そして救命救急センターや手術場を持つ各医療機関では、ドナーの提供が急速に増加しました。このために、全国各県に移植コーディネーターと各医療機関に院内移植コーディネーターが配置されました。そして本人の臓器提供の意思が不明な場合にも、家族の承諾があれば臓器提供が可能となり、15歳未満の者からの脳死下での臓器提供も可能になりました。この臓器移植法の制定で日本の臓器移植は本格的に、稼働を始めたと言っても過言ではありません。
2020年の日本で臓器の移植希望登録をしている人はおよそ1万5千人(腎臓12850人、肝臓338人、心臓859人、肺432人、膵臓194人)います。一方、日本で事故や病気で亡くなる方は毎年およそ110万人です。その1%弱の方が脳死によって亡くなると推定されています。これらの多くの臓器不全患者は、臓器提供による臓器移植を待ちながら、1〜2年のうちに亡くなられ、死亡数は増えますが、患者数は増えることはありません。
それらの内、最近1年間で死体ドナーの臓器移植を受けられた方は、わずか2%です。この数字は、先進国では最下位で、ヨーロッパや米国、さらに韓国、台湾よりも低くなっています。そして、あとの98%は心臓移植を除いた生体ドナーによって行われているとされています。
一方、高知県では、1986年4月23日に高知県初の生体腎移植、1988年10月4日に高知県初の死体腎移植、そして1999年2月28日に日本初の脳死ドナーが高知日赤で報告され、これまで6例の脳死ドナーが発生し、腎臓のみならず心臓、肝臓、肺などが国内で移植されました。また高知県の腎移植例(2020/12月31日まで)は、高知県立中央病院と高知医療センターにおいて366例となり、生体 337例(夫婦間73例)、死体 29例(心停止25例、脳死4例)が行われ、その他、高知高須病院で2例、高知医科大学で1例の生体腎移植が施行されています。このような活動の中、高知県の臓器移植において、2012年と2013年には2年連続、厚生労働省臓器移植対策推進功労賞が授与され、大きな快挙となりました。
今まさに、この時代に日本国民として、臓器提供と臓器移植について知っていただき、健康保険証や運転免許証の裏面の臓器提供に関する意思表示欄をご覧になり、ご家族や友人と話し合って、自分が亡くなった時より、自分の大事な人や身近な方が亡くなる時に、臓器提供について普段から考えておくべき時代が訪れています。